菩提樹の演目

二十代バイの心の声まとめ

顔面のコンプレックスを克服しようとした話(後編)

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 顔が大きいというコンプレックスの克服、小顔への活路を、パパイヤ鈴木とコルギに見出した私は早速、ネットを開きコルギサロンへの予約へとこぎつけた。

 

一言で言えばこの通りであるが、この間にいくつかの葛藤があった。


まず、その値段である。


一回の施術60分15,000円。
下手な風俗より全然高い。

 

エステというのは女性の方は割と月1、2回くらいで行っているイメージであったが、
まさかこんなに高額であるとは思いもしなかった。

世の女性凄い。


物は試しとは言え、失敗できない値段なのである。
吟味に吟味を重ねなくてはいけない、
より怪しくなく、効果がありそうな所を選ばなくては、、、

少なくとも後悔はしたくない。

 

結局選んだのは、都内に複数店を構えるコルギ専門サロンであった。

一回の施術こそ16,000円だが、初回特典として値段が半額の8,000円になるのが決め手となった。


そしていよいよ施術当日。
ネットを開いて悩み葛藤し始めてから、サロンに足を運ぶまでに、実に二週間が経とうとしていた。

 


都内のオフィスビルの4階にそのサロンはあった。

エレベーターに乗り、4階のドアが開くとそこには、お洒落な金持ちのリビングといったような空間が広がっている。

なんだか少しいい匂いがする。

 

これがエステ。

エステ初体験者にとって感銘を与え、その場違い具合に帰りたくなるほどの空間がそこにはあった。

 

受付の女性に氏名を告げると
奥の部屋に通され、「少しお待ちくださいね」と即座にハーブティーを持ってきてくれた。


ハーブティー

もうお洒落である。

居酒屋のお通しが、エステでいうところのハーブティーなのだ

お洒落が過ぎる。
正直もう帰りたい。

 

さて、そんな事で茶をしばいていると

先程、受付をしてくれた彼女がカルテボードを片手に帰ってきた。

 

どうやら受付をしてくれた彼女が今日施術を担当してくれる女性のようである。

「本日担当させて頂きますぅ〜里奈といいます、よろしくお願いしますね〜。」

そう上ずった声で、自己紹介する彼女の胸元には手書きのハートやらピンクやら星やらの でデコレーションされた
『里奈』という漢字が書かれた名札が付いていた。

正直、周囲のインテリアに対して、この居酒屋バイトのようなフランクな名札は、浮いているなんてものではない。

正直怪しさすら感じてしまう。

今までの雰囲気ぶち壊し、
里奈が一体何を考えているのか分からない。


そんな事を考えている間に、コルギを始める前のカウセリングが始まった。

 

コルギは痛みを伴う施術である事、

場合によっては痣が残るかもしれないという事、

そんな説明やら、顔のどこかコンプレックスなのかという、質疑応答の後、
里奈さんは、私の顔をじっくり見て、何箇所か私の顔を触った後少し目を見開いて

声高々とこう告げた。


『ヤバイっすよ!
顔にめっちゃ『膿』が溜まってます!!!』


その時はギョッとしてしまい、流されるままに話を聞かされたが、

今こうして振り返ると冷静になって思う。


初対面の人間に対して、この小娘は急に何を言いだすんだ。


さて、その後の彼女の説明を要約すると、
人の顔の骨の間には、日々老廃物が蓄積されるらしく、この老廃物が人の顔を歪め、
そして大きくしているのだそうだ。

そして、その骨の間の老廃物をリンパと共に流していくのが、コルギなのだという

特に私はその老廃物が溜まりパンパンになっているようである。


なんか、こう、骨気に対してはイメージとして

『リンパとかそんなの関係なく無理矢理骨格変えたるで!』みたいなのを想像していた分、少々期待外れな理屈な気もする。

 

 

まぁ、そんなこんなで説明の後、
上半身だけ健康ランドにあるような服に着替えいよいよ施術が始まった。


まず、そっと目の上にタオルをかけられると、
オイルが顔に塗られ、私の顔の輪郭に沿って揉みほぐされ、そしてながされていく、

中々に心地が良い。

 

顔のリンパを流すには、リンパが流れる先の出口を揉みほぐしてから顔のマッサージをしなくては意味がない。
そしてリンパの出口となるのが、デコルテと耳の後ろから首の付け根なんだそうである。

 

ははーん、デコルテってなんか聞いた事あるけど、鎖骨の辺りのことをいうのね〜

へぇ〜、こりゃいい極楽極楽
里奈さんだっけ?なかなかやるじゃないの


なんて考えている内に
『その瞬間』は訪れた


急に顔に激痛が走ったのだ。


さて、人間の頭蓋骨はおおよそ、外からのダメージを軽減する、
正に鎧ともいえる役割を担っているが

この『鎧』は顔中完璧に覆われている訳もなく、

『骨のない部分』窪みや、繋ぎ目など弱点とも言える箇所が多々存在する。


そして、鎧で守られていない部分を攻撃されると痛むのは、
人類の身体の構造上、至極当然といえよう。


話は戻るが、この里奈という小娘、あろうことか、
初手で私の頬骨の下部分の骨のない、
『頭蓋骨の窪んでいる所』をゆびで抉るように突き刺してきたのである。


正に目の覚めるような痛みが身体中を駆け巡る。


先ほどまで極楽を提供した彼女の姿はもういない、
タオルで見えはしないが冷徹な殺し屋のような顔をしているのは間違いないだろう

国王という座に胡座をかき、民には圧政を敷き、
自分は豪華絢爛、酒池肉林。毎日そんな生活を送っていたら、ある日実はレジスタンスの暗殺者であった妾の1人に、油断しきった所をナイフで突き刺される。

そんな因果応報を体現したような国家転覆のイメージ映像が脳裏をよぎった。

 

完全に油断しきって調子に乗った私が悪い。

この瞬間、栄枯盛衰が私の顔面の上で完遂した。


勿論、この痛みが、この一刺しで終わる事はなく、
ここから四十分もの間、この頬下の窪みの他にも、人が考えうる限りの方法で私の骨の隙間という隙間は指で抉られ、
そして頭蓋骨の凸部分は圧迫され続けた。

コルギは痛いと聞いていたが正直想像以上である。

その中でも特に、仰向けに寝ている私の頬骨に対して、
真上から真下へと垂直に全体重を掛けて押されたのもかなり効いた。

この日、私は頭蓋骨は圧迫されるとミシミシ音を立てるという事を初めて知る。

 

とても痛い

とにかくずっと痛い。
ただただ痛い、

 

しかし痛いと言った結果、
『施術の力が弱くなり施術効果が減るのは嫌だ。』という、
貧乏性な発想からか、どうしても痛いと言えない。

 

痛い痛いと心の中でただ耐え忍ぶしかないのだ。

 

人間こうも痛みが続くと、痛いのを通り越してだんだん悲しくなってくる。


このマッサージを終えたらひょっとしたらモテるんじゃないかと淡い妄想していたあの時間。


不安とウキウキした気持ちで八千円を支払った瞬間


ここに至るまでの幸せだった時間がフラッシュバックする、、

 

一体どうしてこんな事になってしまったのだろう。


私が一体何をしたのだ、、


ただ、ちょっと頬骨が出ていて、顔が大きいだけではないか、、

 

頬骨が出ているのがコンプレックスでここまで来て、頬骨を凹ます為に来たのに

 

『頬骨が出ていてごめんなさい。顔が大きくてごめんなさい。』と涙を滲ませる事になるとは夢にも思わなかった。

 

 

 

60分終わった頃には満身創痍
ずっと横たわっていただけだがかなり疲れた。

施術が終わると、また先のカウンセリング室に通され、またハーブティーを頂いた。

茶にはじまって茶に終わる。
これがエステ道なのであろう。


茶をしばいていると、最後に里奈さんは疲労困憊な私に、ある提案を持ちかけて来た。


『今は顔が小さい状態であるが、一週間もすると元に戻る。
だが、10回も施術を行えば骨が固まりもうすぐには戻らなくなるようになる。

 

ここで、丁度今、10回の施術コースというものがある、


そしてその10回コースは今日体験施術を終えたこの瞬間のみ、特別割引として3割引で提供できる。』と。

 


これがエステ道。
もう、私には身体的にも精神的にもこれ以上は無理だと悟った。


ちょっと考えてみますね
そう告げるので精一杯であった。

こうして、私の人生初エステは疲労感と顔と心の痛みを残した結果となった。

 

 

 

 

さて、気になるのは今回のエステの結果であるが、
たしかに顔が少し小さくなった気もする。

ただ、エステの後日、様々な人に会ったが顔の大きさについて指摘する者、変化に気づく物は、誰もいなかった。


結局そういうものなのだ。

誰にも気付かれはしなかったが、私的には確かに効いて、確かに顔が小さくなった気がする。
そう思わなくてやるせなさすぎる。